NCCNガイドラインコメント
◎非小細胞肺がん close
NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン2020年版(非小細胞肺癌)監訳に際して

 NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドラインは、新知見を積極的に採用する編集方針がとられているが、同時にそれが故に十分にエビデンスの蓄積されたとはいえない内容も採用されることになる。これに付随している潜在的な危うさに対しては頻回の改訂で対応されている。近年非小細胞肺がんの薬物療法は、複数の第V相試験により標準治療が乱立している状況にある。そのためNCCNガイドラインでは、エビデンスに基づくカテゴリー分類だけでなく、委員の意見に基づきPreference(望ましさ)としてレジメン毎に3段階の重みづけを行うようになった。一方、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインは2017年改訂よりGRADEアプローチにてエビデンス評価を行い委員の投票により推奨度を決定している。日米の作成委員の価値観の違いによってレジメン毎の重みづけが異なる箇所があることに注意いただきたい。

 この日本語監訳版は、日本肺癌学会のガイドライン作成委員会のメンバーが中心となり作業にあたった。2020年版の最も大きな改訂点として、上述したとおりPreferenceによる分類が追加されたことが挙げられる。また、ドライバー遺伝子の検索がより一層重要視され、治療前にそれらの情報を得ておくべきとの考えから、樹系図から’or unknown(または不明)’の記載が削除された。なお、非小細胞肺がん領域は内容が膨大となっておりいくつか誤記も散見される(別紙参照)。NCCNへ修正依頼を行っており、次回改訂において修正見込みである。

 ガイドラインの前半は樹形図による記載が中心であるが、後半は文章による記載であり最新の肺がん治療学の教科書としても利用できる。日米の医療制度や新薬承認状況の違いや日本肺癌学会のガイドラインとの相違も随所に伺い知ることができ、興味深い。利用される皆様にはこのようなNCCNガイドラインの特性を十分にご理解された上で日常診療に活用されることを切に希望したい。

2020年12月吉日
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