NCCNガイドラインコメント
◎造血成長因子 close
この NCCN ガイドライン日本語版「造血成長因子」は、日本癌治療学会G-CSF適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループが監訳・監修した。

「造血成長因子」ガイドライン閲覧の際の注意点
日本癌治療学会G-CSF適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループは、2013年に、「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版」を公開・発刊したのち、約1年毎に小改訂を行ってきた。2020年4月現在、「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版 Ver. 5」が最新版として公開されている(http://www.jsco-cpg.jp/item/30/)。
「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版」およびその小改訂版では、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドライン(1,2)、欧州がん治療研究機構(EORTC)のガイドライン(3)、に加えて、全米総合がん情報ネットワーク(National Comprehensive Cancer Network: NCCN)の最新ガイドラインが参照されており、基本的な考え方は、これらのガイドラインと同様のものとなっている。たとえば、「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版 Ver. 5」では、G-CSFの一次予防的投与について、発熱性好中球減少症(FN)発症率が20%以上のレジメンを使用するときに、FN を予防するためのG-CSF の一次予防的投与が推奨されているが、この20%というカットオフは、ASCOガイドライン、EORTCガイドライン、および、NCCNガイドラインと一致している。
一方で、「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版 Ver. 5」では、日本の医療環境に即した記載もなされており、レジメン毎のFN発症頻度を示した表には、日本で行われた臨床試験に基づく結果も積極的に取り入れられている。

日本癌治療学会G-CSF適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループでは、現在、大幅改訂の作業を進めており、2021年に改訂版の公開を予定している。「G-CSF適正使用ガイドライン2021年版(予定)」では、FN発症率20%というカットオフを前提とするのではなく、Minds診療ガイドラインに基づくシステマティックレビューにより、G-CSF使用の益と害のバランスを、厳密に評価していく予定で、現在、多くの専門家が集い、緻密な作業が進められている。NCCNガイドライン等の海外ガイドラインと足並みを揃えることに主眼を置いていた「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版」とは全く異なる作成手法であり、世界的にも前例のない挑戦的な取り組みである。2021年版が発行された際には、NCCNガイドラインとの違いにも注目していただきたい。

NCCN ガイドライン「造血成長因子」では、FN予防でのG-CSF使用だけでなく、「癌および化学療法による貧血の管理」のための赤血球造血刺激因子製剤(ESA)使用についても取り上げられている。2018年版までは、「骨髄増殖因子ガイドライン」と「Cancer- and Chemotherapy-Induced Anemiaガイドライン」が、別々に作成されていたのが、2019年第1版から「造血成長因子ガイドライン」として統合されたためである。「G-CSF適正使用ガイドライン2013年度版 Ver. 5」で扱っているのはG-CSFの適正使用のみであり、ESAの適正使用については言及されていない。日本において、癌および化学療法による貧血に対するESA使用は承認されておらず、これについて取り上げた日本の公的なガイドラインは現時点では存在していない。

以上の状況もご理解いただきつつ、このNCCN ガイドライン日本語版「造血成長因子」をお役立ていただければ幸いである。

1. Smith TJ, Khatcheressian J, Lyman GH, et al: 2006 update of recommendations for the use of white blood cell growth factors: an evidence-based clinical practice guideline. J Clin Oncol 24:3187-3205, 2006.
2. Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al: Recommendations for the use of WBC growth factors: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline update. J Clin Oncol 33:3199-3212, 2015.
3. Aapro MS, Bohlius J, Cameron DA, et al: 2010 update of EORTC guidelines for the use of granulocyte-colony stimulating factor to reduce the incidence of chemotherapy-induced febrile neutropenia in adult patients with lymphoproliferative disorders and solid tumours. Eur J Cancer 47:8-32, 2011.

2020年4月13日

文責:日本癌治療学会 G-CSF適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ
監訳・監修: がん研究会有明病院 乳腺内科 高野 利実(委員長)
和歌山県立医科大学 血液内科 田村 志宣
がん研究会有明病院 乳腺内科 尾崎 由記範
日本癌治療学会 ↑このページの先頭へ
close