NCCNガイドラインコメント
◎慢性骨髄性白血病  close
このNCCNガイドライン日本語版「慢性骨髄性白血病」は、日本血液学会 造血器腫瘍ガイドライン作成委員会が監訳・監修した。

慢性骨髄性白血病(CML)の治療成績は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の導入により格段に向上し、現在の治療目標の1つはTFR(treatment free remission)を目指すところまで来ている。この背景にはイマチニブに加えニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブさらにポナチニブが日常診療に導入され治療選択肢が拡大したことと、国際指標(IS)による分子遺伝学的モニタリングが標準化され、TKIによる治療効果の評価が確立されたことが大きい。また、TKIによるCMLの10年生存率は約90%に達しているが、このように生存期間が延びてくるとTKIによる新たな有害事象も明らかになってきた。
NCCN造血器腫瘍ガイドラインには、慢性期から進行期CMLの診断から治療マネジメントまでが最新のエビデンスに基づいて詳細に記載されている。2018年に発刊された日本血液学会による造血器腫瘍診療ガイドライン第2版も、ELN(European Leukemia Net)のガイドラインを中心に多くのエビデンスを基に作成されているためにNCCNガイドラインとも大枠は一致している。
この度、NCCN造血器腫瘍ガイドライン2019年第1版CMLの監訳にあたり、まず議論になった点はEMRの定義である。NCCN造血器腫瘍ガイドラインでは早期の分子遺伝学的奏効(EMR)の定義を、TKI治療における「3ヶ月および6ヶ月時点でのBCR-ABL1 (IS)≤10%」と定義している。一般には、EMRの基準はELNによる「3ヶ月時点でのBCR-ABL1 (IS)≤10%、6ヶ月時点でのBCR-ABL1 (IS)≤1%」を至適奏効(optimal response)とする定義を用いて考えられている。NCCN造血器腫瘍ガイドライン監訳では、「早期の治療効果を評価するためのマイルストーン」として表にまとめられているが、EMRに関してはELNの基準に基づいて治療効果の判断を行う方が合理的と考えられる。
TKIによるCML治療の成績が向上するにつれ、TKI中止についての関心が集まっている。日本血液学会の造血器腫瘍ガイドラインの改訂案策定においてもこの点について委員の間で大きな議論がなされ、TKI中止は「妊娠を望む女性や重篤な副作用の合併など特別な事情がある場合、完全には否定できない急性転化に関する十分な説明同意と毎月の定量PCRによるMRDのモニタリングを行う」との条件下以外でのTKI中止は推奨されていない。NCCN造血器腫瘍ガイドラインにおいても、「一部のCML患者では」との文言で中止基準を事細かく記載しているが、積極的に中止を推奨している訳ではない。現在、国内外で多くのTKI stop試験が行われているので、これらの結果が集約され、統一した中止基準が確立されれば、いずれのガイドラインにおいてもより積極的にTKI中止の方向性が示されるものと思われる。
TKI stopのためにはMRDの評価が重要であり、TKI治療によるより深い分子遺伝学的奏効を得る必要がある。BCR-ABL1 mRNAが定量的なRT-PCR法により陰性となることを分子遺伝学的完全奏効(CMR: complete molecular response)と表していたが、検体量に依存して奏効の水準が異なる可能性があるために、現在ではISに換算してTKIによるMR4.0以下の深い奏効をDMR(deep molecular response)と呼んでいる。この点に関してNCCN造血器腫瘍ガイドラインでも“CMR”という言葉は使わないように記載してあるにも関わらず、随所で“CMR”という表現を使用していることに注意すべきである。現時点でのCML治療の目標はELNによるoptimal responseであるMMRではあるが、TKI中止のためにはDMRを長期間持続することが必要であり、具体的な中止基準の策定が今後の課題であると考えられる。
以上のように、いくつか注意すべき点はあるもののNCCN造血器腫瘍ガイドラインには現時点におけるCML診療の基本的事項が網羅されており、この監訳版が日本血液学会造血器腫瘍診療ガイドラインとともに日常診療に活用されることを願っている。

(文責 日本血液学会 造血器腫瘍ガイドライン委員会)
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