このNCCNガイドライン日本語版「急性骨髄性白血病」は、日本血液学会 造血器腫瘍ガイドライン作成委員会が監訳・監修した。
急性骨髄性白血病(AML)は、米国においても我が国においても成人の急性白血病の中で最も高頻度に見られる病型である。AMLの一病型の急性前骨髄球性白血病(APL)に対しては、他の病型のAMLと異なった治療が行われ、近年その治療成績は大きく向上しており、この2014年Ver.2でも治療に関する推奨は更新されている。
AML(非APL)
若年者AMLに対する寛解導入療法は、NCCNのガイドライン、「造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版」(以下、日血診療ガイドライン)共に、標準量シタラビン+アントラサイクリンをカテゴリー1で推奨しているが、大量シタラビンに対する対応には差違がある。このガイドラインでは大量シタラビンをカテゴリー2Bで推奨しているが、日血診療ガイドラインではカテゴリー3としている。また、我が国では、大量シタラビンの適応は再発又は難治性の急性白血病に限定されていることにも注意が必要である。本ガイドラインでは、寛解導入療法の治療効果を判断するため、寛解導入療法後7-10日目に骨髄検査を行い、その結果に応じた追加治療(post-induction therapy:導入後療法)を推奨している。これは我が国で以前実施されていた個別化療法(response oriented therapy)と同様の考え方に基づいている。しかし、このような寛解導入療法中の介入がAMLの予後を改善するかどうかは明らかではない。寛解後療法は、染色体や遺伝子変異により症例を層別化して大量シタラビンか幹細胞移植をカテゴリー2Aで推奨しているが、本邦では遺伝子変異検索の保険適応が得られていないことから、日血診療ガイドラインでは染色体により症例を層別化して治療を推奨している。しかし、日血診療ガイドラインでは、非交差耐性のアントラサイクリン+標準量シタラビンによる4回の地固め療法もカテゴリー2B で推奨し、大量シタラビンは予後良好な症例(CBF白血病)に限定しカテゴリー2Aで推奨している。高齢者AMLに対する寛解導入療法は、全身状態(PS)、治療関連AML、MDSの既往の有無、染色体や遺伝子変異によって層別化し、PSが2以上の症例には通常量のアントラサイクリン+治療法を、PSが3以下(不良)か重篤な合併症を有する症例には強度の低い治療(低用量シタラビン、5-azacytidine, decitabine)や支持療法(ハイドレアはここに含まれる)をカテゴリー2Aで推奨している。高齢者AMLの寛解後療法は症例の状態に応じて、強度の低い治療、アントラサイクリン+シタラビン療法、大量シタラビン療法(1-1.5g/m2)から非破壊的前処置による幹細胞移植をカテゴリー2Aで推奨しているが、日血診療ガイドラインでは一部の症例でのみ寛解後療法が有効であると記載し、大量シタラビン療法は記載されていない。本ガイドラインでは、治療法のみならず、微小残存病変(MRD)のモニタリング、サーベイランスや救援療法についても詳細な記載がある。また、救済療法については代表的なレジメンが提示されており有用である。
本ガイドラインでは、一貫して、臨床試験への参加を勧めているが、我が国ではAMLを対象とした臨床試験は少ない。しかし、JALSG(日本成人白血病治療共同研究グループ)のホームページ(http://www.jalsg.jp/)の治験情報の項に現在実施中の臨床試験が紹介されており、参考になる。
APL
APLに対するNCCNガイドラインでは、全トランス型レチノイン酸(ATRA)と亜ヒ酸(ATO)を取り入れた臨床試験の4つのプロトコールが採用されている。予後因子である治療前白血球数10,000 /µ L以上のハイリスクとそれ以下の標準リスクによって治療法が大別される。ATRAと化学療法によるフランスのAPL2000試験ではATRA+ダウノルビシン(DNR)+シタラビン(Ara-C)による寛解導入後、DNR+Ara-Cの地固め療法を2コース、ATRA+MTX+6MPの維持療法を行っている。ハイリスクには地固め療法のAra-Cを大量にする。スペインのLPA2005ではATRA+イダルビシン(IDR)による寛解後、ATRA+アントラサイクリンによる地固め療法3コース、ATRA+MTX+6MPの維持療法を行う。ハイリスクでは地固め療法にAra-Cを追加併用している。ATOを導入した米国のC9710試験では標準、ハイリスクともに同一レジメンでATRA+ DNR+Ara-Cによる寛解導入後、ATO 2コースとATRA+DNR 2コースの地固め療法、ATRAによる維持療法を行う。新採用のイタリアのAPL0406試験では標準リスクを対象にATRA+ATOによる寛解導入および地固め療法を施行する。APL0406試験の良好な成績は2年間の観察なので長期の観察結果を待って再評価すべきと考える。ハイリスクではオーストラリアのAPML4試験が採用され、ATRA+ATO+IDRによる寛解後、ATRA+ATOによる地固め療法2コースを行う。いずれもハイリスク群では4〜6回の髄注による中枢神経再発予防が勧められている。これらの治療により90%以上の完全寛解率、80%以上の無再発生存率および90%以上の全生存率が期待される。
このように、本ガイドラインではATRAとATOを寛解導入および地固め療法に導入し、抗がん薬を減らして骨髄抑制による併発症を減少させる方向にある。日血診療ガイドラインでは、ATRA+アントラサイクリン+Ara-Cによる寛解導入、アントラサイクリン+Ara-C の地固め療法3コースおよびハイリスク群にはATRAあるいはタミバロテンによる維持療法を勧めている。我が国ではATOは再発難治例の保険適応のため、地固め療法における使用もJALSGの臨床試験で行っている。NCCNガイドラインに記載されたそれぞれのレジメンは寛解導入、地固め療法および維持療法を一貫したプロトコールとして行うべきであると繰り返し注意されている。たとえば維持療法の意義はそれまでの治療によって変わるからである。提唱されているプロトコール間での比較試験はないので、どの治療法を行うかは患者の状態や治療期間等を考慮して選択する必要がある。
再発例では前治療でのATOの使用の有無および6ヶ月以内の早期再発か否かを考慮してレジメンを選択する。ATOをベースにIDRもしくはATRAの追加によって再寛解へ導入し、自家移植、同種移植あるいはATOによる地固め療法をMRDも参考に選択する。APLではPML-RARAを用いたMRD判定が臨床上有用で、地固め療法後の陰性化が長期生存には必須である。PML-RARAが2回連続陽性化すれば分子再発として再発時の治療をすることが勧められている。 |