NCCNガイドラインコメント
◎大腸がんのスクリーニング close

この NCCN ガイドライン日本語版「大腸癌のスクリーニング」の翻訳に関しては、大腸癌研究会が監修したものである。

大腸癌は肺癌および胃癌に次いで悪性腫瘍による死亡の第 3 位(女; 1 位、男; 3 位)を占めているが (2008年 ) 、年齢調整死亡率は漸減傾向にある。医療環境の改善、診断治療法の進歩のほかに、大腸がん検診、とりわけ大腸内視鏡検査によるスクリーニングの効果も影響している可能性がある。

本ガイドラインに記載されている内容は、米国の医療技術と医療経済を背景としている点に留意する必要がある。

本ガイドラインでは、大腸癌内視鏡検査をゴールドスタンダードに位置づけ、便 DNA 検査と CT コロノグラフィーについても、その進歩を評価している。一方、わが国の「大腸がん検診ガイドライン」 注) では、集団を対象とした大腸がん検診としては便潜血検査(化学法・免疫法)が推奨されており、大腸内視鏡検査、注腸 X 線検査は勧められていない。内視鏡検査、注腸 X 線検査によるスクリーニングに伴う不利益が無視できないとの判断からである。

本ガイドラインが力を注いでいるのは、腺腫、大腸癌既往、炎症性疾患 および家族歴(遺伝的負荷)等による大腸癌リスクの評価と、リスクに応じたスクリーニングやサーベイランスプログラムの検討である。なかでも遺伝性大腸癌はスクリーニングに適した病態として、遺伝子診断と内視鏡検査を中心に具体的なスケジュールが詳細に示されている。しかしながら、日本では遺伝性大腸癌に関して、マイクロサテライト不安定性検査以外に保険適応となる遺伝子検査はない。また、本ガイドラインは遺伝性腫瘍に対する予防的治療としての手術療法にも言及しているが、日本では議論の余地が多く残された課題である。
( 文責:大腸癌研究会 )

注)「癌検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班:有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン。平成16年度厚生労働省がん研究助成金。2005年3月

【和訳文について】
和訳文の作成にあたっては原文に忠実な翻訳を原則としたが、日米の表現法の相違、用語の定義の相違などのために、直訳では誤解を生じる恐れがあるものについては、日本語として適切に判断される表現に置き換えた。


訳出例

Structural screening test
器具を用いたスクリーニング検査
[説明]  技術的構造 engineering structure の不具合や損傷を検出するために定期的にその構造をモニターすることを structural health monitoring と言うが、そこから連想した用語と思われる。ここでは上記のように訳した。

At risk
リスクが考えられる(状態、人)
[説明]  必ずしも実際に大腸癌のリスクが高い状態ではなく、(優性遺伝性の場合)罹患者の第1度近親などで、罹患者である可能性がある場合をいう。具体的にリスクがある場合はCRC risk, increased risk, the risk of recurrence, などとある。

Recurrence
再発
[説明]  大腸癌の再発のように元の成分が再び出現するのみでなく、全く新しいポリープなどが再発生することをも含む。ここでは再発とした。

Adenoma burden
腺腫の量
[説明]  腺腫の数、大きさ、組織像を考慮した個体が担う腺腫の状態の意。ここでは「腺腫の量」と訳した。

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