[ 概要 ]
「前立腺癌は米国人男性に最も多く診断される癌であり、癌死因の第2位である。
2016年には180,890人の男性が前立腺癌と診断され、26,120人が本疾患で死亡すると推定されている」
[ 解説 ]
日本の2014年の前立腺癌罹患数は胃癌、肺癌に次いで第3番目であったが、
2015年には前立腺癌が98,400人で第1位となった
(国立研究開発法人 国立がん研究センター:がん対策情報センター:2015年のがん罹患数、死亡数予測:がん情報総合サイト「がん情報サービス」)。
日本における前立腺癌死亡数は増加傾向にあり、
平成26年人口動態統計月報年計(確定数)の概況(厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課)
:第7表:死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率によると、2014年の死亡数は1万1千人以上であり、
2015年の男性癌死亡数予測によると12,200人と、肺癌、胃癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、膵臓癌についで6番目に多い
(国立研究開発法人 国立がん研究センター:がん対策情報センター:2015年のがん罹患数、死亡数予測:がん情報総合サイト「がん情報サービス」)。
[検査に関する実際的な考慮事項] [検査の開始年齢][検査の頻度]
「当委員会は、45〜75歳の男性でPSA値が1ng/mL未満の場合は2〜4年毎、PSA値が1〜3ng/mLの場合は1〜2年毎の再検査を推奨する。」
[ 解説 ]
日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン:2010年増補版」、「前立腺癌診療ガイドライン:2016年版」では、
PSA基礎値の有用性と、現在の日本の検診システムの現状を考え、人間ドックのような個人負担あるいは企業負担での検診では、
40歳代からの受診開始を推奨し、住民検診では一部公費負担で実施し、確実な癌死低下効果が得られることが、
無作為化比較対照試験で証明されている50歳からの検診受診を推奨している。
また、日本人の研究において PSA 基礎値がその後の前立腺癌罹患危険率に密接に関連しているとの報告がなされている。
日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン:2010年増補版」では、
検診受診間隔の設定をすることは検診の費用対効果費の向上につながる可能性が高く臨床応用すべきとの考えから、
今までの研究結果に基づき、 PSA 基礎値が 1.1ng/ml 〜基準値以内の男性においては毎年、
PSA 基礎値が0.0 〜 1.0ng/mlの男性においては、3年ごとの検診受診を推奨している。
[検査に関する実際的な考慮事項][検査の中止年齢]
「現時点で当委員会は、75歳までの男性に対するスクリーニングの実施と、
それ以降はごく一部の適性患者のみでのスクリーニングの継続(カテゴリー2B)を支持している。
当委員会は、この高齢集団には高リスクの状態で受診する患者も含まれるが、
75歳以上でPSAスクリーニングが有益となる男性はごく少数であることを指摘している。」
[ 解説 ]
日本では米国と比べて、若年齢層からの検診普及が進んでいないため、現時点で画一的な年齢上限を設定することは困難である。
しかし、高齢者におけるPSA検診継続の判断をするための、余命を予測する正確なモデルは現時点ではないが、
将来の方向性として、健康状態評価手段(G8 geriatric tool)などを検診受診推奨判定に用いることは、方策の一つである。
(日本泌尿器科学会「前立腺癌診療ガイドライン: 2016 年版」より抜粋)
[高リスク集団におけるスクリーニング]
「ベースラインPSA値が家族歴の有無や人種よりも強力な予測因子であると認識している」
[ 解説 ]
日本人においても、PSA基礎値は人種差を超える、前立腺癌の罹患予測因子であることが証明されている。
( Ito K, Raaijmakers R, Roobol M, et al. Prostate carcinoma detection and
increased prostate-specific antigen levels after 4 years in Dutch and Japanese males
who had no evidence of disease at initial screening. Cancer. 2005; 103: 242-250. )
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [年齢階層別および人種別PSA基準範囲]
「前立腺癌の早期発見においてこれらの年齢階層別および人種別のPSAカットオフ値が果たす正確な役割はいまだ不明である。
当委員会は、これらの範囲のルーチンの採用については何の推奨も示していない。」
[ 解説 ]
日本人においても、年齢階層別PSA基準値の有用性について確定的な証拠はないが、全年齢で一律4.0ng/mLの基準値設定と比べ、
理論的にもまた若干の研究成果からもより優れている可能性があると考え、日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン:2010年増補版」、
「前立腺癌診療ガイドライン:2016年版」では、推奨される基準値 (50歳〜64歳; 3.0ng/mL、65 歳〜69歳; 3.5ng/mL、70歳以上; 4.0ng/mL) を提唱している。
(Ito K, Yamamoto T, Kubota Y, et al. Usefulness of age-specific reference range of prostate-specific antigen
for Japanese men older than 60 years in mass screening for prostate cancer. Urology. 2000;56: 278-282.)
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [PSAD]
「当委員会は、陰性の生検結果が出た場合には、そのPSA値の上昇の原因を考える場合、
PSADで説明できるかもしれないとの認識をもっているが、PSAD単独では他の検査を上回る付加利益がほとんどなく、
超音波検査を必要とするため、PSADをベースラインの測定項目として早期発見ガイドラインに組み込んでいない。
それでも当委員会では、PSADは臨床応用はあまりされていないものの、患者評価に用いることを考慮してもよく、
特に事前に超音波で前立腺体積を測定したことがある患者を評価する際にはより考慮される可能性があるという見解で一致している。」
[ 解説 ]
これまで、本ガイドラインではPSADの臨床使用に関して、経直腸的超音波検査 (TRUS)による前立腺体積測定の煩雑さと、
他の検査との比較において付加価値がほとんどないとの理由で推奨されていない。
しかし日本では、TRUSが臨床の現場で普及しており、前立腺体積の測定も米国と比べ頻繁に日常診療で行われ、
PSADは生検適応の判断に日常診療で用いられている。
しかし、最適な基準値の設定については議論のあるところである。
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [PCA3]
「FDAは、過去に前立腺生検で陰性と判定された50歳以上の男性において
再生検が必要か否かを他の因子とともに決定する際の参考検査として、PCA3の測定を承認している。」
[解説]
日本では、臨床研究の段階で有用性を示唆する研究成果が出ているが、
体外診断薬としての臨床使用のめどは立っていない。
(Okihara K, Ochiai A, Kamoi K, et al. Comprehensive assessment for novel prostate cancer markers
in the prostate-specific antigen era: focusing on Asians and Asian countries. Int J Urol. 2015; 22: :334-41.)
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [Prostate Health Index(PHI)]
「PHIは、血清PSA値が4〜10ng/mLの男性を対象として、2012年にFDAによる承認を受けた。」
[解説]
日本では、臨床研究の段階で有用性を示唆する研究成果が出ており
(Ito K, Fujizuka Y, Ishikura K, Cook B. Next-generation prostate-specific antigen test:
precursor form of prostate-specific antigen. Int J Clin Oncol. 2014; 19: 782-92.)、
体外診断薬申請へ向けた、[-2]proPSA関連インデックスの前立腺癌診断における有用性を検証する、
国内多施設共同研究(臨床試験登録:UMIN000016934)が進行中であるが、今後の承認のめどは未定である。
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [4Kscore®]
「当委員会のコンセンサスは、生検前の患者と過去に生検で陰性と判定されたが
臨床的に重要な前立腺癌のリスクが高いと考えられる患者では、この検査を考慮してもよいというものである。
ただし、4Kscoreはカットオフ値が確立されていないことを患者と泌尿器科医が理解しておくことが重要である。
4Kscore検査を実施する場合は、患者と泌尿器科医は結果について話し合い、生検に進むかどうかを決定すべきである。」
[解説]
日本では、臨床研究の段階で有用性を示唆する研究成果が出ているが、
体外診断薬としての臨床使用のめどは立っていない。
[バイオマーカー検査:PSA関連検査とその他の検査] [ConfirmMDx]
「当委員会は、再生検で前立腺癌と診断されるリスクが高い個人をこの検査で同定できる可能性があることから、
再生検を検討している男性に対する選択肢としてConfirmMDxを考慮できると考えている。」
[解説]
日本では、臨床研究の段階で有用性を示唆する研究成果が出ているが、
体外診断薬としての臨床使用のめどは立っていない。
[生検の方法] [初回生検]
「当委員会は、少なくとも12カ所の多部位コア生検
(辺縁部の内側および外側6カ所と異常部位を狙撃)の施行を推奨する。
前立腺前方部への生検はルーチン生検での実施は支持されていない。
しかし、PSAが持続的に上昇している場合には、多部位生検のプロトコルに移行域の生検を追加することを考慮してもよい。」
[ 解説 ]
日本では、経会陰的生検を実施している施設も多く、
その場合正確な前立腺前面移行領域への生検が可能になる可能性が高く、
前立腺の前方部のみに検出されるがんが多いことが報告されており
( Ito K, Ohi M, Yamamoto T, et al. The diagnostic accuracy of the age-adjusted and prostate volume-adjusted biopsy method
in males with PSA levels of 4.1 to 10.0 ng/ml. Cancer. 2002; 95: 2112-2119.)、
経会陰的生検では初回生検より、前立腺前方への生検を行うことも多い。
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