NCCNガイドラインコメント
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この NCCN ガイドライン日本語版「腎がん」の翻訳は、日本泌尿器科学会腎癌診療ガイドライン作成委員会が監修した

日本泌尿器科学会は、わが国における腎癌の最適な診療の普及と均てん化を目的に「腎癌診療ガイドライン・2007年版および2011年版」を出版している。日本泌尿器科学会のガイドラインは作成委員会により提案・作成した臨床的な疑問 (CQ) に「根拠に基づいた医療 (EBM) 」の手順に基づいて答える形式を採用した日常診療に役立つ実践的なガイドラインである。一方、今回、日本語版の監修に携わった NCCN ガイドラインは、最新の研究内容を取り入れ随時改定された、米国における腎癌診療についての詳細な治療戦略を提案している有用なガイドラインである。

本ガイドラインに記載されている内容は、背景となる医療制度や医療事情の相違を理解する必要があり、日本における臨床において必ずしも現実的でない側面があることに留意する必要がある。

本ガイドラインでは、小径腎癌に対する経皮的局所療法としてのラジオ波焼灼術と凍結療法が推奨されている。わが国において、ラジオ波焼灼術 は 2008 年、先進医療技術として認可され現在に至っている。凍結治療装置は、 2010 年 1 月、医療機器承認がなされ、2011年6月、保険収載された。分子標的薬や抗癌剤に関しては日米間に相違があり、わが国においては、本ガイドラインで進行症例に対する選択肢として推奨されている多種受容体チロシンキナーゼ阻害剤であるソラフェニブが、 2008 年 4 月、スニチニブは同年 7 月に、さらに mTOR 阻害剤であるエベロリムスは 2010 年 4 月、テムシロリムスは同年 9 月に、アキシチニブは2012年8月に発売開始されているが、日本人を対象としたこれら薬剤の有効性、安全性に関するエビデンス(科学的根拠)は必ずしも十分ではない。また、同じく推奨されているベバシズマブおよびパゾパニブは未だわが国において腎癌に対する適応はない。本ガイドラインの治療選択肢として挙げられている抗癌化学療法は、わが国において一般的でない。

臨床試験のシステムが発達している米国においては臨床試験への積極的な参加が推奨されている。わが国における臨床試験は一部の大学やがん拠点病院など限られた施設で施行されている現状で国民の臨床試験に対する認識も低く現実的な選択肢とは言いがたい。

本ガイドラインをわが国で適応するには、これらの状況を理解した上で参考にすることが望ましい。
(文責:小原 航、藤岡知昭)
【和訳文について】
和訳文の作成にあたっては原文に忠実な翻訳を原則としたが、日米の表現法の相違、用語の定義の相違などのために、直訳では誤解を生じる恐れがあるものについては、日本語として適切に判断される表現に置き換えた。

訳出例

Energy ablation therapy
経皮的局所療法
[ 説明 ] ラジオ波焼灼術と凍結療法をさすので、わが国で広く用いられ、「腎癌診療ガイドライン」で使用されている「 経皮的局所療法 」を訳語とした。


cytoreductive nephrectomy, comprehensive metabolic panel, randomized discontinuation trial,
(訳語なし)
[ 説明 ] コンセンサスのある日本語が存在しないため、英語表記のままとした。
 
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