NCCNガイドラインコメント
◎胸腺腫および胸腺癌 close

この NCCN ガイドライン「胸腺腫および胸腺癌」 (2014年第1版) の翻訳は、日本肺癌学会が監訳した。

胸腺腫をはじめとする胸腺腫瘍は発生頻度が少なく、ほとんどの論文は経験に基づく retrospective study であり、 prospective study がなされていても少数例の分析に留まり、現時点でガイドライン作成の資料となるエビデンス・レベルの高い論文はほぼ皆無である。

本文の記載に対して追加すべき事項を以下に記載する。

1. 外科治療の原則として完全切除が大前提であるが、胸腺腫と胸腺癌では多少の違いがある。すなわち、胸腺腫では mass reduction surgery の意義があることを認識しておくべきである。初回手術時に胸膜播種を伴うことがあるが、胸膜播種転移が合併するというだけの理由で切除不能と判断するべきではない。また、不完全切除に終わっても長期生存する症例が存在することが知られているので、完全切除不能と思われる局所進行症例に対しても、外科治療は考慮に値する。その一方、胸腺癌は他の臓器の癌と同様、一般的にはreduction surgery は容認されない。

2. 12 ページ目に代表的な化学療法レジメンが紹介されているが、ここでは記載されていないCAMP療法(シスプラチン、ドキソルビシン、メチルプレドニゾロン)も胸腺腫に対して有効であることが知られている。

3.カルボプラチン/パクリタキセルのレジメンには、胸腺腫で重篤な筋炎による死亡症例の報告があり、投与にあたっては注意を要する。

4. 胸腺上皮性腫瘍の TNM分類は未だ確立されておらず、 WHOが提案した分類も広く普及していない。International Thymic Malignancy Interest Group (ITMIG) は現在、国際データベースを構築しており、UICCにTNM分類を提案する予定である。近い将来に UICCによって認められた TNM 分類と病期が確定することが期待される。

5. 15 ページ目に記載されているWHO組織学的分類への追加の説明として、Type B 胸腺腫において上皮細胞の異型性はB1<B2<B3の順で強くなり、浸潤性も高くなることが知られている。特に Type b3胸腺腫は胸腺癌の組織像を一部に合併する症例の方向もあり、区別の難しいこともある。

6. 15 ページ目に記載されているWHO組織学的分類で、胸腺癌がC型と記載されているが、現在は胸腺癌として別個に扱われている。

7. 19 ページ目に胸腺腫における重症筋無力症の合併の重要性について記載されており、アセチルコリン受容体抗体価の測定が推奨されている。実際に、胸腺腫を合併する重症筋無力症ではほぼ例外なくアセチルコリン受容体抗体が陽性である。重症筋無力症の症状がない胸腺腫の患者にもアセチルコリン受容体抗体が陽性の症例が20%程度存在する。これらの中から、術後に重症筋無力症の症状が出現する症例があるため、胸腺腫では術前のアセチルコリン受容体抗体の有無を把握しておくべきである。

8. 19 ページの放射線治療に関する治療指針の中で、U期胸腺腫に対する術後放射線治療に対して否定的なevidence が増えてきているという記載がある。完全切除後のU期胸腺腫に対する術後放射線治療は従来から議論の的であったが、放射線治療をしない方向で結論に至りつつあると思われる。

 
2014年5月吉日
文責:日本肺癌学会監訳者一同
日本肺癌学会 ↑このページの先頭へ
close