この NCCN ガイドライン「胸腺腫および胸腺癌」 (2012年第2版) の翻訳は、日本肺癌学会が監訳した。
胸腺腫をはじめとする胸腺腫瘍は発生頻度が少なく、ほとんどの論文は経験に基づく retrospective study であり、 prospective study がなされていても少数例の分析に留まり、現時点でガイドライン作成の資料となるエビデンス・レベルの高い論文はほぼ皆無である。
本文の記載の中で追加すべき事項を以下に記載する。
1. 13 ページの胸腺腫の WHO による病理分類への追加の説明として、 Type B 胸腺腫はさらに Type B1, B2, B3 に区分され、上皮細胞の異型性は B1<B2<B3 の順で強くなり、リンパ球の混在度は B1>B2>B3 の順に少なくなる。
2. 胸腺腫患者における重症筋無力症の合併に対する注意事項が 16 ページに記載されているが、重症筋無力症患者の全身麻酔に伴う実地臨床上の問題点は、術中よりも術後の呼吸管理である。重症筋無力症の患者に全身麻酔で筋弛緩薬を投与した場合には麻酔からの覚醒時の筋力低下が問題で、その後の人工呼吸管理が必要になる可能性がある。また、重症筋無力症の合併の可能性があれば、麻酔科医師との連絡の上、筋弛緩薬を使わない全身麻酔を考慮すべきである。
その他、以下の事項について追記する。
1. 病理学的に胸腺腫と胸腺癌を完全に区別することができない症例も存在はするが、多くはどちらかに分類可能であり、胸腺腫と胸腺癌はその悪性度と自己免疫疾患合併などの生物学的特性から考えて、別個の疾患として治療にあたるべきである。
2. 外科治療の原則として、胸腺腫は mass reduction surgery の意義があることを認識しておくべきである。初回手術時に胸膜播種を伴うことがあるが、胸膜肺全摘による完全切除、原発巣摘出+胸膜播種巣切除などの手術治療も正当化されるので、胸膜播種転移が合併するというだけの理由で切除不能と判断するべきではない。また、不完全切除に終わっても長期生存する症例が存在することが知られているので、完全切除不能と思われる局所進行症例に対しても、外科治療は考慮に値する。その一方、胸腺癌は他の臓器の癌と同様、一般的には reduction surgery は容認されない。
3. 本ガイドラインの化学療法レジメンには記載されていないが、 CAMP 療法(シスプラチン、ドキソルビシン、メチルプレドニゾロン)も胸腺腫に対して有効であることが知られている。カルボプラチン / パクリタキセルのレジメンは、胸腺腫で重篤な筋炎による死亡症例の報告があり、投与にあたっては注意を要する。 |