NCCNガイドラインコメント
◎直腸がん ※結腸がんのコメントと同内容です close
この NCCN ガイドライン日本語版「結腸癌」・「直腸癌」の翻訳に関しては、大腸癌研究会のガイドライン委員会が監修したものである。

大腸癌研究会 はわが国における大腸癌の標準的な治療を示すことで大腸癌治療成績の向上を図ることを目的として 大腸癌治療ガイドライン を出版している。大腸癌治療ガイドラインの作成にあたっては、エビデンスとなる個々の文献を渉猟するとともに、国内外のガイドラインや Cochrane library 、 Up-To-Date などのいわゆる二次情報を参照することも不可欠な作業であるが、 NCCN ガイドラインは二次情報のなかでも最も有用な情報源のひとつと考えている。

一方、 NCCN ガイドラインに限らず、 海外のガイドラインを参照する際には、背景となる医療制度や医療事情の相違を考慮する必要がある。例えば、化学療法の領域では国内外にドラッグ・ラグがあり、海外のガイドラインで推奨されている療法でもわが国の保険診療では使用できないことがある。直腸癌治療に関しては、わが国では補助化学放射線療法や切除不能進行再発癌に対する化学放射線療法のその位置づけは確立しておらず、「手術+放射線化学療法」を標準治療とする欧米の直腸癌の治療方針とは異なっている。さらに、 Stage 分類 注1) や直腸の解剖学的定義 注2) といった基本的な事項にも相違点がある。したがって、 NCCN ガイドライン日本語版「結腸癌」・「直腸癌」を活用する際には、このような相違点があることを十分に理解する必要がある

翻訳内容は十分に吟味したが、翻訳に関する問題点があればご指摘いただければ幸いである。
(文責 大腸癌研究会ガイドライン委員会)

注1)Stage 分類について
NCCN ガイドライン「結腸癌」V3.2013、「直腸癌」 V4.2013 は、 AJCC の TNM 分類第 7 版で記載されているが、これはわが国で広く臨床使用されている「大腸癌取り扱い規約 ( 第 7 版 ) 」とは相違するものであることに留意する必要がある。

注2)直腸癌の定義について
わが国の「大腸癌取扱い規約」あるいは「大腸癌治療ガイドライン」では、直腸を「岬角から肛門管上縁まで」と規定し、直腸を主占居部位とする癌を直腸癌としている。これに対し、 NCCN ガイドラインの定義する直腸癌は「硬性直腸鏡検査で肛門縁から 12cm の範囲内に腫瘍下縁が位置する癌」である。これは、欧米で統一された定義ではなく、 UICC では「大腸癌取扱い規約」と同じ岬角より肛門側の大腸、 AJCC では「肛門縁からおよそ 12cm 」として別の定義を設けている。したがって、欧米の臨床試験における結腸癌には、取扱い規約でいうところの RS 癌および Ra 癌の一部を含むことが多い。欧米の臨床データ、とりわけ補助療法の成績などを参照する際には、結腸・直腸の区分の定義に違いがあることを認識する必要がある。

【和訳文について】
和訳文の作成にあたっては原文に忠実な翻訳を原則としたが、日米の表現法の相違、用語の定義の相違などのために、直訳では誤解を生じる恐れがあるものについては、日本語として適切に判断される表現に置き換えた。

訳出例

Early-stage
進行度の低い
[ 説明 ]  日本では早期癌と進行癌は対語として使用され、癌の浸潤が粘膜下層までにとどまるものを早期癌、固有筋層以深に及ぶものを進行癌とするのが一般的である。ここでいう“ early-stage ”と日本の「早期癌」とは異なる意味で用いられており、混乱を避けるため「進行度の低い」と表記した。

Advanced colorectal cancer/ advanced or metastatic disease
切除不能大腸癌 / 切除不能進行・転移癌
[ 説明 ]  同様に ”advanced cancer” と日本の「進行癌」とは異義語である。意味するところが明確となるよう「切除不能」を付して表記した。なお、 metastatic cancer も当該文章の意味にあわせ、必要に応じて「切除不能」を付した。

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